公共工事を受け続けるためにも、どうすれば総合評定値が上がるのでしょうか?

Q.
 当社は約20年前から地方で建設業を営んでいますが、地方であることから公共工事の受注確保は欠かせません。
 しかし、最近業績が振るわず、経営事項審査の評点が気にかかります。公共工事を受け続けるためにも、どうすれば総合評定値が上がるのでしょうか?

A.
 経営事項審査(以下「経審」と呼ぶ)について見ていくべきなのは、評点の相対値であって絶対値ではありません。同一地域のライバル業者も業績が振るわない状況であることが予想されます。
 公共工事を請け負う建設業者にとって、経審への関心は極めて高いといえるでしょう。資材価格や労働賃金の高騰等、建設業を取り巻く環境は厳しい状況が持続しています。景気が悪化している状況では経審における点数は下がる一方、景気が良くなったら経審の点数が上がると思われます。絶対値が上がることは大切であるものの、そのことに振り回されないようにすべきです。

 自社を競合他社と比べ、自社のポジションを把握して対策を立案し、実行に移すことが、公共工事の受注を続けるためには不可欠です。具体的には、競合他社の評点を入手した上で、自社の評点と比べつつ、評点を上げるべき項目を選び出し、実際のシミュレーションをしていくことが重要です。経審の評点は自治体の格付けにおける客観的評価につながることから、総合評価を上げたいという気持ちが高まるのは当然ですが、評点を着実に上げていくことで格付けアップにつなげていきましょう。

 公共工事の入札・契約制度において、経審は、評価の客観的な基準として、公平かつ実態に合った尺度としての役割を有しています。経審は、その時の社会・経済情勢を考慮しつつ細部も含め、数年ごとに改正されています。
 経審においては、5評点を計算し、総合評定値(以下「P点」と呼ぶ)を算出します。計算式は次のとおりです。
 P点=0.25X1+0.15X2+0.2Y+0.25Z+0.15W
 X1:完成工事高評点
 X2:自己資本額・平均利益額評点
 Y:経営状況分析評点
 Z:技術力評点
 W:その他審査項目(社会性等)評点
 上記の5評点の各々について、次に述べます。

1. X1(完成工事高評点)
 評点は397点~2309点で、P点への影響は99点~577点です。
 完成工事高に対する評点であり、完成工事高1,000億円以上で最高点ですので、最高点を取るいわゆる大企業は、その他の項目によって優劣が生じます。一方、完成工事高が5億円未満の中小企業者は経審受審者の8割を超えていますが、X1の特徴の一つとして評点差の生じやすさが挙げられます。

2. X2(自己資本額・平均利益額評点)
 評点は454点~2,280点で、P点への影響は68点~342点です。
 自己資本額と平均利益額の絶対値での評点です。自己資本額は、企業規模や業種にかかわらず、企業経営の状況を表す重要な指標といえるもので、資本金の大きさや利益のストックによる経営状況の安定性を評価するものです。X2の計算式は次のとおりです。
 X2=(自己資本額評点(X21)+平均利益額評点(X22))/2
 (1)X21(自己資本額評点)
  評点は361点~2,114点です。
  自己資本額が3,000億円以上で最高点となり、自己資産額がマイナスである(債務超過である)場合には0円として算出します。
(2)X22(平均利益額評点)
  評点は547点~2,447点です。
  平均利益額を算出するのに「利払前税引前償却前利益」(EBITDA)を用います。EBITDAはアメリカ発の指標で、企業の会計基準による影響が少ないので採用されたものです。計算式は次のとおりです。
  EBITDA=営業利益+減価償却実施額
  平均利益額は、EBITDAの2期平均値となります。
  平均利益額が300億円で最高点に達し、平均利益額がマイナスである場合には0円として算出します。

3.Y(経営状況分析評点)
 評点は0点~1,595点で、P点への影響は0点~319点です。
 企業の経営状況の分析を行って評価する評点項目で、計算式は次のとおりです。
 Y=167.3×経営状況点数+583
 経営状況点数は、4要素・8指標から算出されます。
 経営状況点数=-0.4650×Y1-0.0508×Y2+0.0264×Y3+0.0277×Y4+0.0011×Y5+0.0089×Y6+0.0818×Y7+0.0172×Y8+0.1906
 (1)負債抵抗力
  Y1:純支払利息比率(上限値5.1%、下限値-0.3%)
  Y2:負債回転期間(上限値18.0カ月、下限値0.9カ月)
 (2)収益性・効率性
  Y3:総資本売上総利益率(上限63.6%、下限値6.5%)
  Y4:売上高経常利益率(上限5.1%、下限値-8.5%)
 (3)財務健全性
  Y5:自己資本対固定資産比率(上限350.0%、下限値-76.5%)
  Y6:自己資本比率(上限68.5%、下限値-68.6%)
 (4)絶対的力量
  Y7:営業キャッシュフロー(上限15億円、下限値-10億円)
  Y8:利益剰余金(上限100億円、下限値-3億円)

4.Z(技術力評点)
 評点は456点~2,441点で、P点への影響は114点~610点です。
 技術職員数評点と元請完成工事高評点から成る評点で、企業の技術力と元請けとしてのマネジメン
ト能力を図るものです。計算式は次のとおりです。
 Z=技術職員数評点(Z1)×4/5+元請完成工事高評点(Z2)×1/5
 (1) Z1(技術職員数評点)
  最高点は2,335点です。
  業種別に職員の審査基準日における技術職員数値を算出し、それを用いてZ1を出します。技術職員数値が15,500点以上に達すると、Z1は最高点の2,335点となります。技術職員数値の計算式は次のとおりです。
  技術職員数値=一級監理受講者数×6+一級技術者数×5+基幹技術者数×3+二級技術者数×2+その他の技術者数×1
  1人の技術者が各々他業種で三つ以上の資格を持っている場合、申請は2業種までしかできないという制限があります。そして、同一業種で二つの資格を持っている場合、有効なのは上位資格だけであり、下位資格は重複カウントが認められていません。
 (2) Z2(元請完成工事高評点)
  最高点は2,865点です。
  発注者より直接請け負った元請完成工事高に対する評点であり、元請完成工事高1,000億円以上で最高点となります。

5.W(その他審査項目(社会性等)評点)
 企業のコンプライアンス、地域貢献等を評価するもので、近年改正が非常に多い項目であるといえます。計算式は次のとおりです。
 W=(労働福祉点数+営業継続点数+防災協定点数+法令遵守点数+建設業経理点数+研究開発点数+建設機械保有状況点数+国際標準化機構登録点数+若年技術者の育成及び確保の状況点数)×10×190/200

 経審を意識して上記5評点の全てを上げることは理想ですが、各社で計画的、総合的に評点を上げる戦略を検討する必要があります。
 対策の効果が評点に表れやすい項目は、Z1やWです。ご質問のケースにおいても、施工管理技士や建設業経理士の資格取得、労働条件の整備を意識的に推進することによって、着実に評点を上げられると予想されます。一方、X2やYに関しては、すぐに改善するのは困難ですので、中長期的に計画を立てて改善していくといいでしょう。

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