大幅な赤字工事が増加してしまいました

Q.
 当社は建設業者ですが、来期の公共工事受注額のランクアップのため、ダンピングを多少行ってでも受注増に注力してきました。それは、経営事項審査における総合評定値に占める割合が0.25と大きく即効性のある完成工事高評点を上げるためです。
 しかし、工事施工過程で、見積価格による材料調達ができず、資材単価のバラつきや納品遅れ、工程に応じた職人の確保ができないことによる工期の遅れ等もあって、大幅な赤字工事が増加してしまいました。結果として、総合評定値が申請業種によっては下がってしまいましたが、無理して受注を増やそうとし過ぎたのでしょうか?

A.
 無理に受注して完成工事高アップを狙うだけでは、経営のバランスが崩れて利益が損なわれる恐れがあります。中長期的営業戦略を練って受注活動を行う必要があります。
 工事が終わってみると大赤字という状況は、財務内容の悪化につながり、結果的に自己資本額・平均利益額評点(X2)や経営状況分析評点(Y)が下がってしまうことにもなりますので、留意しなければなりません。
 X2の計算式は次のとおりです。
 X2=(自己資本額評点+平均利益額評点)/2
 自己資本額評点と平均利益額評点は、各々算出テーブルで計算を行います。平均利益額評点は、営業利益に減価償却実施額を加えたものの2期平均値であることから、営業利益を増やせば評点が上がります。
 また、Yの計算式は次のとおりです。
 Y=167.3×経営状況点数+583
経営状況点数は8指標から算出されますが、総資本売上総利益率と売上高経常利益率の計算式は次のとおりです。
 総資本売上総利益率=売上総利益/総資本(2期平均)×100
 売上高経常利益率=経常利益/売上高×100
 総資本売上総利益率については売上総利益を増やすことが、売上高経常利益率については経常利益を増やすことが、評点を上げることとなります。そして、売上高を減らすと売上高経常利益率は上がるものの、完成工事高評点は下がります。

 即効性を持つと考えられる評点配分も、現行の審査においては総合的な「企業力」を審査する傾向があると認識した上で、ライバル企業を研究・分析し、自社の特性を捉えることにより、財務内容の改善を行って利益を生み出せる競争力を持つことが重要です。そして、売上高を増やすことのみならず、それと同時に会社にとって必要な利益を確保することが、企業力のアップにつながります。
 建設業については、他の業種より原価の占める割合が特に高い状況にあります。適切に原価管理をして優先的に工事原価を圧縮することによって、営業利益を直接、最も効果的に増加させることができるでしょう。

 工事原価圧縮のための原価管理については、それぞれの現場責任者に任せておけばいいというものではなく、管理会計の観点から、会社としての利益目標を設定し、会社の全部門の担当者がその目標達成に努める必要があります。

1.積算原価と見積書
 工事受注に当たり、協力業者や材料納入業者からの見積もり、過去のデータに基づき、自社の実力により工事を確実に完了できる金額を積み上げたものが、積算原価です。厳しく積算原価を積み上げれば、会社が設定した利益目標をのせ競争力を持つ見積書を提出することが可能です。
 厳しく積算原価を設定し、実現できるものである場合、ダンピングがどこまでできるかを判断することができ、営業力も強化されることと思われます。

2.現場実行予算
 工事を受注することができ、請負金額が決定すれば、工事施工工程表の他に、詳細で、精度が高く、より具体的な現場実行予算書を作成しなければなりません。工程表に応じて発注計画を立て、実行予算と実績を常に管理する必要があるからです。請負金額に関係なく、あらゆる工事で現場実行予算書を作成することが重要です。

3.購買発注
 協力業者及び資機材の発注に当たり、購買担当者は、工程表を再検討したり、価格交渉をしたりして、実行予算のさらなる圧縮を図り、利益目標を改めて設定する必要があります。
 なお、価格交渉では、値引きを要求するだけではなく、発注先の過去の実績や現状を適切に認識し、相互の信頼関係を維持できるよう努めることが、次回の工事における自社の財産になります。したがって、現場担当者と緊密に連絡を取り、品質や技術力の確認を怠らず、実績情報を積み上げていくことが重要であるといえます。

4.施工管理
 工事が始まれば、現場責任者は、最低限月次単位での工事進捗報告書と予算・実績対照表及び収支予定報告書を作成し、作業効率を改善して実行予算の管理を日常的に行うようにしましょう。そうすることが、想定外の事態への速やかな対応につながります。

5.原価管理
 社内全体に原価管理意識が定着するためには、経営者が各部門の業務フローや社内システムの整備を行い、各部門から収集した実績情報を分析し、一元管理することにより、正確な最新情報として各部門に常時フィードバックしていくことが重要です。自社の強みや弱みを認識し、他社との競争力を持ち、新しい利益目標に向かい、常にバランスの保たれた企業力が高まるよう、努めていかなければなりません。

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