現場労働者の数が安定せず就業期間の短い労働者も多い

Q.
 当社は工事受注時期が季節的要因の影響を受ける業種で、建設不況が長引いていることもあって、従事する現場労働者の数が安定せず就業期間の短い労働者も多いという状況です。そのため、雇用保険や厚生年金といった社会保険への加入管理を適切に行っていませんでした。
 そのような中、経営事項審査の申請をしましたが、その他審査項目(社会性等)評点で大幅に減点されてしまいました。どうすれば大幅な減点を避けることができますか?

A.
 その他審査項目(社会性等)評点(W)は、社会的貢献度等を評価するものです。
 W=(労働福祉点数(W1)+営業継続点数(W2)+防災協定点数(W3)+法令遵守点数(W4)+建設業経理点数(W5)+研究開発点数(W6)+建設機械保有点数(W7)+国際標準化機構登録点数(W8)+若年技術者育成確保状況点数(W9))×10×190/200
W1のうち、雇用保険・健康保険・厚生年金保険については、加入義務がありますので未加入の場合に減点されるだけであり、加入していても加点はありません。平成24年7月の改正により、健康保険と厚生年金保険が各々評価され、減点幅が-40点と大きくなっています。雇用保険・健康保険・厚生年金保険の三つとも加入していない場合には、-120点です。この改正後、国土交通省と厚生労働者が連携して社会保険未加入対策の厳格化を徹底させるよう動いています。したがって、建設業者が公共工事に参加する場合、必ず社会保険に加入しなければなりません。

 W1は、上記の雇用保険・健康保険・厚生年金保険の点数と、次の三つの制度の点数を合計したものです。次の三つの制度は、加入していれば15点の加点となり、加入していなければ0点となります。
○建設業退職金共済制度
○退職一時金制度もしくは企業年金制度
○法定外労働災害補償制度
 建設業退職金共済制度というのは、国が運営する制度で建設産業全体が適用対象となります。他産業と比較して建設産業で仕事をする労働者については、多くの場合に就労期間が定められた現場で働きます。就労形態が特殊であり、現場や事務所をしばしば替えながら仕事をしますので、事務所ごとの退職金の支給対象とはなりにくい状況です。したがって、建設業の事業主が独立行政法人勤労者退職金共済機構と退職金共済契約を締結し、労働者に交付された共済手帳に労働者が働いた日数に応じて共済証紙を貼ることで、建設産業で働いた期間の全てが退職時に通算され、機構より労働者に直接退職金の支払いがなされるという制度が設けられています。なお、一人親方についても、一人親方同士で任意組合を結成すれば、被共済者となれます。なお、掛け金については税法上、共済契約者に雇用されて共済証紙の貼り付けを受けた場合には、給与所得に該当しませんが、共済契約者が任意組合に払った組合費(掛け金)は必要経費として損金にはなりませんので留意する必要があります。
 退職一時金制度もしくは企業年金制度に加入又はこれを制定しているのであれば、15点の加点となります。国によって加入が義務とされている国民年金(基礎年金)及び厚生年金保険保健(厚生年金)は「公的年金」ですが、企業年金制度は企業が独自に公的年金に上乗せする「私的年金」です。退職一時金制度については就業規則・退職金規定・退職金の原資を確認できる資料が、企業年金については企業年金加入証明が、経営事項審査(以下「経審」と呼ぶ)における導入確認書類として必要となります。
 法定外労働災害補償制度というのは、政府の労働災害補償制度に上乗せして給付するものです。次の条件に該当すれば、15点の加点となります。
○審査基準日が保険期間に含まれていること
○業務災害と通勤災害がいずれも対象であること
○自社及び下請けに雇用されている全労働者が対象であること
○死亡及び労働災害補償保険の傷害等級第1級から第7級までを対象としていること
○関係する施工現場(元請け工事・下請け工事)の全てが対象であること(共同企業体工事現場や海外工事現場以外)
 加点項目とされている建設業退職金共済制度や退職金制度については、費用の負担が長期にわたって軽くありませんので、経営状況に応じてバランスを保ちながら導入するといいでしょう。

 W2は、営業年数点数と民事再生法・会社更生法の適用有無点数を合計したものです。
営業年数点数は、建設業の許可又は登録を受けたときより審査基準日までの期間を算出テーブルに当てはめて年数を求めます。具体的には、営業年数が35年以上で最高点の60点となり、34年なら58点、33年なら56点というように営業年数が1年減れば点数が2点減ります。営業年数が6年なら2点となり、5年以下で0点となります。
 民事再生法・会社更生法の適用有無点数については、民事再生法・会社更生法の手続期間中である場合に-60点とされます。
W3は、国、特殊法人等又は地方公共団体との間で、災害時における防災活動につき防災協定を結び、防災活動に一定の役割を果たすと確認できる場合、15点の加点となります。
 W4は、審査対象事業年度に建設業法第28条によって、指示をされた場は-15点とされ、営業停止処分となった場合は-30点とされます。
 W5は、監査の受審状況点数と公認会計士等数点数を合計したものです。監査の受審状況点数については、会計監査人を設置している場合は20点、会計参与を設置している場合は10点、公認会計士・会計士補・税理士・登録経理試験1級合格者(1級建設業経理士)の資格を有する職員が適正に経理処理を行っている旨の確認書類を提出した場合は2点の加点となります。公認会計士等点数については、次の計算式により算出した数値(A)を完成工事高別の算出テーブルに当てはめて求めます。
 A=公認会計士数+会計士補数+税理士数+登録経理試験1級合格者数+登録経理試験2級合格者数×0.4
 技術職員数評点(Z1)において技術職員のスキルアップにより評点が上がるのと同様に、W5では経理職員が1級建設業経理士又は2級建設業経理士の資格を得ることによって評点が上がります。特に1級の資格を持っている場合には、上記の経理処理の適正確認書類に署名押印を行うことができますので、評点アップが見込まれます。
 W6は、評価対象が会計監査人設置会社に限られています。研究開発費の2期平均値を算出テーブルに当てはめて求めます。100億円以上で最高点の25点となり、5,000万円以上1億円未満で1点、5,000万円未満なら加点はありません。
 W7は、自ら有している建設機械だけでなく、一定の要件に該当するリース契約の建設機械も評価対象とされています。建設機械1台につき1点の加点となり、15点で最高点の15点となります。
 W8は、国際標準化機構が定めたISO9001・ISO14001の登録を受けている場合に加点があります。ただし、認証範囲に建設業が含まれていなかったり、認証範囲が一部の支店等に限られていたりすれば、加点はありません。
 W9は、若年の技術職員の育成・確保に継続的に取り組んできた建設業者を評価するもので、平成27年4月以降の経審において採用されています。点数については、継続的な取組みを評価するべく、技術職員名簿に記されている35歳未満の技術職員数がその名簿全体の15%以上である場合に1点の加点となります。また、審査対象事業年度における取組みを評価するべく、審査基準日よりさかのぼって1年以内に技術職員名簿に新たに記された35歳未満の技術職員数がその名簿全体の1%以上である場合に1点の加点となります。したがって、加点は合計2点までです。

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