長期大規模工事に該当しないということでしょうか?

Q.
 当社は建設業者で民間工事を専門としています。このたび、JV(建設共同企業体)で、工事(請負総額12億円、工期1年半)を受注しました。請負金額のうちの1億円が当社の分配割合です。労働単価や資材価格が大幅に高くなったことから、当初見積もりに比べて原価が高くなってしまい、この工事は赤字工事となってしまうことが決まっています。
 当社においては工期2年以上の長期工事についても「工事完成基準」によって収益認識を行うのが通常ですが、このJV工事は請負金額が合計10億円超であって工期が1年超ですので、「長期大規模工事」に当てはまると判断し、「工事進行基準」によって損失申告を行っていました。しかし、先日の税務調査で、このJV工事につき工事完成基準での損失(収益)認識を行うように指導されました。長期大規模工事に該当しないということでしょうか?

A.
 長期大規模工事というのは、次の条件の全てに当てはまるもののことです。
○請負金額が10億円以上であること
○請負金額の2分の1以上が、引渡日の1年経過後に支払われることが定められていないこと
○工事期間が1年以上であること
 ご質問のケースについては、請負金額が10億円に満たないことから、長期大規模工事に該当しないと思われます。JV工事については、構成員ごとの契約により成立し、また、利益や損失等がJV事業から各構成員に直接帰属されるものであるならば、長期大規模工事に該当するかどうかの判定は、分配される請負金額によってなされます。

 建設業会計において、工事完成基準と工事進行基準の適用に関する定めは複数存在するものの、工事が10万円未満かつ1年未満である場合、工事完成基準により収益を計上します。ただし、継続適用を条件に、工事進行基準の適用が認められることもあります。
 ご質問のケースでは、10億円に満たないとの指摘がありましたが、契約全体で一つの工事を請け負ったと認められる場合には契約全体の金額によって判定を行います。複数の契約書が存在しても、契約に至った事情等を考慮することになりますので、JV工事を請け負うに当たっては細心の注意を要します。

 法人税法基本通達2-1-5は、請負工事の収益計上基準について、「請負による収益の額は、別に定めるものを除き、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日の属する事業年度の益金の額に算入する」と定めています。したがって、工事請負は原則として完成時に収益を計上します。ただし、「別に定めるものを除き」とあり、これは工事進行基準、部分完成基準、延払基準を除いてという意味です。これらの基準について以下に述べます。

1.工事進行基準
 長期大規模工事に当てはまる工事を請け負った場合、工事進行基準が強制適用となります。また、長期(1年以上)請負工事については、継続適用を条件に選択適用が認められています。
 工事進行基準による収益及び原価の計上方法は、次のとおりです。
 当期工事収益=予想工事請負金額×工事進行割合-前事業年度までに計上した収益
 当期工事原価=予想工事原価×工事進行割合-前事業年度までに支出した原価
 工事進行割合=当期までに発生した原価÷予想工事原価
 なお、ご質問のケースのように損失が予想される工事も含まれるものの、翌年以後に予想される分の損失を工事損失引当金として会計計上した場合、確定債務ではないことから、法人税法上の経費として認められないということになります。

2.部分完成基準
 一つの契約で同種の建設工事等を大量に請け負った場合において、その引渡量に応じて工事代金を受領するという習慣又は特約が存在するとき、例えば、建売住宅の建築を請け負って、全戸が完成する前に完成した戸数のみを引き渡し、その部分の請負金額に当たる代金が支払われるときに、部分完成基準によって収益を計上します。目的物の引渡しと工事代金の請求が同時になされることが、部分完成基準を適用する条件となります。
 ただし、工事進行基準が適用される長期大規模工事に当てはまるのであれば、強制適用となりますので、部分完成基準は適用されません。

3.延払基準
 長期割賦販売等に当てはまる工事を請け負った場合において、その収益額及び費用の額につき、工事の引渡しの日の属する事業年度以降の各事業年度の確定した決算において政令で規定する延払基準で経理を行ったときには、その経理した収益及び費用の額はその事業年度の益金の額及び損金の額に参入できます。
 延払基準を適用するためには、次の条件に該当する必要があります。
○月賦や年賦等、3 回以上に分割して対価の支払を受けること
○その契約において定められている目的物の引渡期日までに支払期日の到来する賦払金の合計額が、請負金額の3分の2以下となっていること
○目的物の引渡期日の翌日より最後の賦払金の支払期日までの期間が 2 年以上あること
 そして、政令で規定する収益及び原価の計上方法は、次のとおりです。
 当期に計上すべき収益=請負工事の対価の額×賦払金割合
 当期に計上すべき原価=請負工事の原価の額×賦払金割合
 賦払金割合=対価の額の賦払金のうち当期に支払期日の到来した合計額/請負工事の対価の額

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