建築コストが全体的に膨らんできていることを考慮し、利益を上げるべく経費削減に日々取り組んでいます。

Q.
 当社は建設業者で、民間の建築を行っています。近年はマイホームやリフォームの需要が高まっていることから、少しずつ契約を重ね、年商15億円程度にまで成長しました。近頃はオリンピックや震災などが影響して建築コストが全体的に膨らんできていることを考慮し、利益を上げるべく経費削減に日々取り組んでいます。
 そのような状況において、契約書について、写しには印紙を貼る必要がないという話を同業者より聞いたことから、当社もそうすることとしました。新規受注の契約書につき、発注者の契約書を原本とし、当社で保管する契約書を写しとしましたので、当社分については印紙を貼らずに念のため契約当事者である発注者及び当社の署名押印をした契約書を保管しました。
 しかし、その後、税務調査があり、当社の印紙税額の3倍に当たる過怠税を納めることとなってしまいました。このような処理に問題があったのでしょうか?

A.
 印紙税法における課税対象については、「契約当事者の双方又は文書の所持者以外の一方の書名又は押印があるもの」と定められていますので、自社分の控えとして、印紙を貼ることなく、念のためとはいうものの契約当事者である発注者及び自社の署名押印をした契約書を保管したことに問題があります。

 印紙を効率的に用いて節約に努めることは当然の権利であり、また、会社経営の面においても無駄を省いて費用を抑えることは重要でしょう。
 しかしながら、ご質問のケースにおいて、自社分の控えとして、印紙を貼らずに契約当事者である発注者及び自社の署名押印をした契約書を保管したことは不適切でした。直接署名押印をするのではなく、署名押印をした後の契約書をコピーして保管するべきでした。

 印紙税法では、契約書に関連して次のように定められています。
 契約書が作成されるのは、成立した契約内容を契約当事者が各々相手方当事者などに証明するためですので、通常は各契約当事者が各1通を所持します。このような場合に、契約当事者の一方が所持するものに正本又は原本との表示をし、もう一方が所持するものに写し、謄本、副本といった表示をするケースが存在します。ただし、写し、謄本、副本といった表示のある文書でも、おおよそ次のような形態であれば、契約の成立を証明するために作成されたことが文書上明白であることから、印紙税の課税対象とされています。
○契約当事者の双方又は文書の所持者以外の一方の署名又は押印があるもの
○正本などと相違ないこと、又は写し、謄本、副本等であることなどの契約当事者の証明があるもの
 一つの契約につき複数の文書が作成された場合、それらの文書全てが各々契約の成立を証明するために作成されたものであるならば、全て印紙税の課税対象ということになります。
 ちなみに、所持する文書に自身の印鑑のみを押したものについては、契約の相手方当事者に対して証明の用をなさないものですので、課税対象外とされています。また、契約書の正本を複写機を用いてコピーしただけであって上記の署名若しくは押印又は証明がなければ、課税対象外となります。

 契約書の写しを課税対象外とするためには、次の二つが重要といえます。
○契約書の上から署名や押印をしないこと
○契約書に例えば「この契約の証として本契約書一通を作成して乙がこれを保有し、甲はこの写しを保有することについて、甲乙双方が確認した」といった一文を入れること

 裁判で契約の成立が争点となった場合、「原本」に比べて「写し」は証拠としての価値が低いと判断される恐れがあるという法務上の問題点が存在します。したがって、自社が写しを保有することとしていいかについては、十分な検討を要します。

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